公務員の手当・制度

【解説】通勤手当における最も”経済的かつ合理的”と認められる経路や方法について

通勤

 

いままでに会社に行く際のルートや交通手段の選定に迷ったことはありませんか?

 

ここでは、通勤手当の考え方としてよく見られる「通勤手当は、運賃、時間、距離等の事情に照らし、最も経済的かつ合理的と認められる通勤の経路及び方法によって算出の上、支給する」の“最も経済的かつ合理的”という点について解説していきたいと思います。

 

なお、この解説は国家公務員が順守する人事院規則や各自治体の地方公務員が順守する条例等に基づいて考察されています。

 

また、そもそも通勤手当について詳しく知りたいと思われた方は下の内容を確認ください。

通勤手当
【解説】公務員における通勤手当について(何が根拠に?どんなルールで?) 公務員のための給与関係の説明をしていきたいと思います。 (過去の自治体では自身が公務員でありながら、自分の給与詳細を知...

 

経済的ってどういうこと?

この「経済的」という言葉はどのような意味があるのでしょうか?

調べてみると以下のような表現が出てきます。

 経済・金銭に関係のあるさま。

 費用や手間などがかからないさま。むだがなく安上がりなさま。

= 引用先:経済的の意味 ~コトバンクより~ =

通勤手当における「経済的」の意味は、「2 費用や手間などがかからないさま。むだがなく安上がりなさま。」が適切だと思います。

 

つまり、費用がかからない = “お金が安い” という意味となります。

 

このことから、通勤手当における経済的というのは、“なるべく交通費用を安く抑えること” ということになります。

 

合理的ってどういうこと?

この「合理的」という言葉はどのような意味があるのでしょうか?

こちらも調べてみると以下のような表現となります。

 道理や論理にかなっているさま。

 むだなく能率的であるさま。

= 引用先:合理的の意味 ~コトバンクより~ =

通勤手当における「合理的」の意味は、1 と 2 の両方とも適切だと思います。

 

つまり、「道理がかなっていて無駄のないこと」という意味となります。

 

このことから、通勤手当における合理的というのは、“効率的で無駄がないこと” になります。

 

“経済的かつ合理的”は総合的に考えるとどうなるの?

以上のことから、”経済的かつ合理的な経路や方法”を考えると、つまりこういうことになります。

「お金が安いルートや方法で、さらに効率的で無駄がないルートや方法」という意味になります。

 

この考え方がとても難しいです。

 

というのも、この”経済的かつ合理的”というのは”経済的”または”合理的”のどちらかだけをみて判断してはいけないため、両方を満たすバランスが求められます

 

そのバランスには人の主観が入るため、ぞれぞれの人の考え方によって正解が変わってきます。

 

ここでは通勤経路や方法を選定する際の考え方の一例を会話形式で説明していきます。

登場人物
Qくん
Qくん
入社2年目で最近家を引っ越しました。
引っ越し後は、家の最寄り駅はA駅で、B駅を乗り継いで、会社の最寄り駅のC駅に通勤することになりました。
Aさん
Aさん
会社で人事部に勤務している勤続30年のベテランだよ。
社員の通勤手当など諸々を確認する事務をしているよ。

Qくん
Qくん
最近引っ越したから、職場から通勤手当をもらうために通勤経路とかの申請をしないといけないな。
この内容で通勤手当を申請するので確認をお願いしまーす!
Aさん
Aさん
うん、どれどれ?
…なんでこのルートで職場に来ようと思ったんだい?
これじゃとても、経済的かつ合理的とは到底言えないよ。
Qくん
Qくん
”けいざいてきかつごうりてき”??
何ですかそれ?
聞いたこともありません。
Aさん
Aさん
え?会社に入ったときに最初の説明で言われなかったかい?
簡単に言うと、
「経済的」とは、交通費としてかかる金額が安いということ。
「合理的」とは、交通経路として遠回りじゃない無駄のないルートということだ。
就業規則の通勤手当のところに書いてあるよ。
Qくん
Qくん
そういうことですか!
僕はプライベートでD駅によく行くから、D駅を経由した「A駅ーB駅ーD駅ーC駅」の最短距離で申請してるから合ってるんじゃないですか?
Aさん
Aさん
うん、いろいろ勘違いしているね。
まず、一つ目はD駅は経由してはいけない
まず通勤手当は原則として、君が会社に通勤するために会社が負担しているお金なんだよ。
だから通勤に関係ない場所に行くためのお金として通勤手当は出せないんだよ。
そして、二つ目が最短距離だから良いという考え
「合理的」というのは距離だけで考えるのでなく、時間的観点と乗換回数の観点などからもみる必要があるんだよ。
Qくん
Qくん
え!そうなんですか?
じゃあ、A駅ーB駅ーC駅で行くことにするしかないなぁ。
でもそうした場合に経路がいくつもあるんですけど、どの経路にしたら良いんですか??
Aさん
Aさん
そこはさっきも言った、経済的かつ合理的という観点から見るんだよ。
どう調べるればよいかというと、スマホに電車やバスの乗り換えアプリがあったりしないかい?
それで家の最寄駅から職場の最寄駅までの経路を調べてみれば良いよ。その中で最も安くて時間が早い経路を選択したら良いよ。
Qくん
Qくん
そうなんですね、早速みてみます!
…いくつもルートが出てきて選べません。。。
①金額が片道520円、時間が40分かかるルート
②金額が片道380円、時間が60分かかるルート
③金額が片道400円、時間が45分かかるルート
最も安くて早い経路なんて一つに絞れないです!
Aさん
Aさん
確かに最も安くて早い経路は一つに絞れないことが多いから、判断が難しいよね。
しかしこの中からでも選ばないといけない。
まず①は、一番金額が高いけど、時間としては一番早いね。
次に②は、一番金額が安いんだけど、時間がかかりすぎているね。
そして③は、金額は二番目に安くて、時間としても二番目に早いね。
総合的に見て、③が妥当かな
Qくん
Qくん
え!そうなんですか。
でも僕は、朝はゆっくりしたくて、②の電車が一番空いているからこれにしたいんですけどダメですか?
Aさん
Aさん
あまりよくないね。
合理的という観点からみると、比較的空いているからとか座れるからというのは理由にならないんだ
Qくん
Qくん
え、すごく残念です。
でも、②の経路は一番安いんですけど、会社的に安い方がいいと思うし、この経路じゃなくていいんですか?
Aさん
Aさん
②は確かに一番安いんだが、他の経路と比べて20分弱も遅くなってしまうから、合理的という観点からみて少し弱いかな、と思うんだよね。確かに会社的には安い方がいいけど、それだけじゃなく通勤に沢山時間がかかった場合、その分社員が疲れてしまって仕事で本来の力が発揮されないという考えもあるんだ。
Qくん
Qくん
そういうものなんですね。会社は優しいな。
では、①はなぜだめなんですか?
Aさん
Aさん
そうだね①に関しては、
通勤所要時間と値段を比較してみると、片道100円分も金額の違いがあるのに、通勤所要時間としては5分しか短縮されていないから、割合で考えるとあまりよろしくないかなと思うんだ。
片道で100円も鉄道賃が違うと、6か月定期で15000円近く金額が変わることもあるからね。
Qくん
Qくん
なるほどなるほど。でも割合で考えるっていうのはどういうことですか?
Aさん
Aさん
これは、僕の考えなんだけどね。
2つの経路を比較して金額と所要時間における変化の割合を比較して、大きな差が生じなかったらいいかなと思っているんだ。
例えば今回の場合は、③は①と比較すると、交通費だと400円と520円で変化率は130%なんだ。
そして、所要時間だと45分と40分で変化率は88%なんだ。
そうなると、金額が30%高くなっているのに所要時間は12%しか減少していない
すると、①は金額の上り方の割に所要時間の減り方が少ないじゃないかという考えになるんだ。だから①はあまりよろしくない。
Qくん
Qくん
なるほど、そんな考え方もあるんですね。
そうなると、やはり③が一番良いんですね。
Aさん
Aさん
うん、一つの考え方として僕はそれが妥当かなと思っている。
だから一概には言えないけど、僕は③がいいと思うね。
経済的というのは、最も金額が安いということだから数字で表れるからすごく分かりやすいんだ。
でも、合理的というのは、色々な要素を判断しないといけないからすごく複雑で判断が分かれるところなんだ。
Aさん
Aさん
合理的の判断基準としては、例えば、
①トータルの通勤時間が短い。
②乗り換え回数が少ない。
③乗り換え時の徒歩時間が短い。
④家や会社の最寄駅からの徒歩時間が短い。
⑤通勤経路の距離が短い。
⑥ほかに特別な事情がある。
などがあって、それらを総合的に見てどの経路にするか判断しないといけないんだ。
Qくん
Qくん
そうなんですか、特別な事情ってなんですか?
Aさん
Aさん
特別な事情とは、例えば足にケガをしていて歩くのがとても辛いとか、家庭の事情で朝と夕方に子供を送り迎えをしないといけないとか。
他にも理由が色々あって、場合によっては通勤経路としては認められるけど、通勤手当は特別な事情によって増えた金額を出せない場合もあったりするんだ。
Qくん
Qくん
そうなんですね。
今回僕は特別な事情もないし、①の経路で申請するとするか。
そして、最近は健康に気を使ってるから、B駅ーC駅間は歩ける距離だから歩こうっと。その分交通費が浮くし、健康にもお財布にもいいことづくめだ!やった!
Aさん
Aさん
えっと、、、それはだめだね。
あくまで、通勤手当として申請したとおりの方法と手段で通勤していないと不正に受給したとみなされて会社から処分されるよ。
前にそれをやった人がいて、不正に受給していた分を全額返還して、さらに裁判にもなりそうだったよ。
Qくん
Qくん
えぇぇ、そうなんですか。
不正に利益を得ようとしたらいけないんですね。メモメモっと。
分かりました!じゃあ、通勤手当は「A駅ーB駅ーC駅」分で貰って、D駅分の寄り道分を自腹で払って、A駅ーB駅ーD駅ーC駅分の定期券を買おうっと!
Aさん
Aさん
うーん、それもあまりよろしくないんだ。
うちの会社での話だけど、D駅にいくのは本人の利益どころか自腹を切ってる状態なんだが、申請した通勤経路が普段通っている経路という考え方だから、その定期券に全く関係のない駅を経由しているのは、うちでは認めてないんだ。例えば通勤の途中でD駅に寄っているときに事故にあった場合は、通勤災害として認められず労災保険が下りないこともあって、結果的に社員の不利益になる可能性もあるから、うちは禁止にしているだ。
つまり申請した通勤届と同じ内容の定期券を買わないといけないんだ。
何かしらの特別な理由があればその限りではないんだけども。
Qくん
Qくん
え、そうなんですか。
なかなか厳しいですね。友達はそんなこと言ってなかったのにな。
じゃあ、今日聞いたことを友達にも教えてあげよっと!
Aさん
Aさん
友達に教えてもいいけど、別の会社の友達かい?
だとしたら今教えたことがすべては当てはまらないかもしれないよ。
今いったことはあくまで弊社の話ね。経済的かつ合理的というのは多くの会社がその方針だと思うけど、どちらを重視しているかとかが会社によって違ってくる場合があるよ。
会社によっては安いルートで必ず支給する。というのも聞いたことがあるし、定期券を買うときに通勤に関係のない駅(D駅)を経由しても自腹を切ったらよい。という会社もあるみたいだ。それぞれの会社の就業規則やそれに関する規定などに載っているからそれを読むのをお勧めするよ。
Qくん
Qくん
そうなのか、会社によって違っているんだ。分かりました!
じゃあ、経済的かつ合理的という考え方だけ教えてあげようっと。
複数のルートがあって、どれも経済的な要素もあって合理的な要素もあったら、会社の就業規則などを確認してそれでも分からなかったら、通勤手当の事務担当者に判断を仰ぐのがベターなんですね。
Aさん
Aさん
うん、そうだね。
あと、通勤手当というのは会社から社員に払わなければいけないと法律では定められていないんだ。
だから会社によっては通勤手当が出ないところもあるし、考え方が少し違ったりする。うちの会社は通勤手当が出るだけでも恵まれてるという考え方もあるんだよ。

まとめ

様々な会社の就業規則に「通勤手当は、運賃、時間、距離等の事情に照らし、最も経済的かつ合理的と認められる通勤の経路及び方法によって算出の上、支給する」という文言でよく記載されています。

 

経済的かつ合理的というのは、簡単に言うと以下の意味になります。

 

経済的とは、金額が安くあること

経済的観点としては、金額を確認するだけなので、判断する上であまり迷うことはない思います。

気を付ける点としては、仕事の通勤日数によっては定期券よりICカードや回数券で買ったほうが安い場合があったり、各鉄道会社によって電車やバスを利用することによりポイントが貯まって通常より安く買える場合は、安くなった金額で購入する必要があったりします。

 

合理的とは、時間、距離等の観点からみて効率的であること

合理的観点としては、様々な要素から総合的にみて判断するので一概に答えを出すのは難しいです。

例えば、上の会話で説明した、

 ①トータルの通勤時間が短い。
 ②乗り換え回数が少ない。
 ③乗り換え時の徒歩時間が短い。
 ④家や会社の最寄駅からの徒歩時間が短い。
 ⑤通勤経路の距離が短い。
 ⑥ほかに特別な事情がある。

があります。ほかにも考え方としては、

有人改札を必ず通らないといけないとか、異なる鉄道会社を乗り継ぐため一度改札を出ないといけないなどで非常に手間ががかかる場合も合理的な面からみて選択肢から外すなどの考慮してもいいかもしれません。

 

 二つの経路があり、判断に迷う場合

2つの経路を比較して金額と所要時間における変化の割合を比べる方法をとれば、数値に表れるため客観的判断ができ、迷いが少なくなるかと思います。

 

上の会話で例を示しましたが、二つの経路があった場合に、金額の変化率と通勤時間の変化率に大きな差がなければどちらを選んでも問題ないと判断します。

 

ただ、金額または通勤時間の差が大きい場合でも他に合理的である理由があるのなら、それを考慮して最終的にどちらかに決めるのが良いかと思います。

 

以上の考えはあくまで一つの例となり、すべてに当てはめることは難しい場合があるかもしれませんが、客観的に判断できる一つのルールとして考えることができるかと思います。

 

 

コメントはこちら

  1. 牛込の猫 より:

    コロナ明けで通勤メインとなり、若手を中心に申請の混乱がありそうな話題ですよね。私自身、人事歴は長く時間対金額の考え方は全く同じです(先人に叩き込まれました)。
    ただ、通勤災害での合理的なルートかどうかは最終的に労基署が判断するものですし、本人が希望するルートの手当が出なかった場合の慰めにもなるので「申請外のルートでも通勤を逸脱しない範囲なら大丈夫だよ」とアドバイスしています。

    • RH より:

      管理人のRHです。
      牛込の猫さん、コメント頂きありがとうございます。

      考え方としては、やはりそれが妥当性の観点から適正ですよね。一緒の考えで良かったです。

      なるほど「申請外のルートでも通勤を逸脱しない範囲」というのは「社会通念上での常識の範囲内」という意味と理解しましたが、初めての社会人だと少し混乱することがあるのかなとも思うのですが、少し踏み込んで「具体的には?」と質問された場合に牛込の猫さんは決めている回答等はありますか?